網膜色素変性症iPS細胞から病態メカニズムの再現成功

網膜色素変性症iPS細胞から病態メカニズムの再現成功

国内初のiPS細胞を使用した臨床試験として、滲出型加齢黄斑変性に対するiPS細胞由来網膜色素上皮シート移植研究が進んでいます。
その中で、網膜色素変性症のiPS細胞から病態メカニズムの再現に成功したという報告が、慶應義塾大学医学部眼科学教室の網膜細胞生物学研究室と、
生理学教室との共同研究グループが発表されました。

 

日本では、失明する患者の8割が、何らかの網膜に関する疾患が理由で失明しています。
網膜色素変性症の研究を進めることで多くの患者が救えるという点では、この研究が有意義な研究であることがわかります。
また、網膜色素上皮の培養は30年前から行われており、十分な基礎研究が実施されています。
これらのことから、網膜に関する数々の研究が積み重ねられ、網膜色素変性症のiPS細胞から病態メカニズム解明まで至ることができたと考えられます。

 

研究グループは、対象患者の皮膚細胞をもとに、iPS細胞の作成に成功しました。
そして、iPS細胞内にある変異したロドプシンに対して、遺伝子組み換えを行うことによって修復しました。
さらに、iPS細胞から分化した細胞として、桿体視細胞が発見されました。
この研究から、遺伝子の変異によって細胞死が亢進することが判明し、その原因には小胞体ストレスとオートファージ−機構が関与していることが明らかになりました。

 

この他にも、遺伝子変異した細胞には、放線菌が作る抗生物質の一つであるラパマイシンが有効に働くということがわかりました。
ラパマイシンによって細胞の亢進が抑制されることがわかり、網膜色素変性症治療にとっては大きな前進だと言えるでしょう。
現在、網膜色素変性症に対する有効な治療はなく、一刻も早い治療法の確立が望まれています。
加齢黄斑変性に加え、眼科疾患のiPS細胞に関する研究が進んでいく中で、再生医療において日本は世界から大きな注目を集めています。
眼以外の疾患に対して、iPS細胞を使用した治療法や再現実験に成功したという事例が発表されるケースはまだ少ないというのが現状です。
しかし、今後ますます研究が進むことが期待される分野であり、網膜色素変性症の病態メカニズム再現に成功したという発表は、
今後の再生医療研究の大きな先駆けになることが期待されます。